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【石坂信也のゴルフ未来日記 Vol.8】 社長自身が米国にいる理由

ゴルフ業界にいると“カールスバッド”という地名をよく耳にする。カリフォルニア州サンディエゴから北へ車で約30分。広大なアメリカ大陸のごく狭い一角に、テーラーメイド、キャロウェイ、アクシネット、コブラプーマといったそうそうたるゴルフメーカーが肩を寄せ合うように本社やパフォーマンスセンターを構えている。どこか憧れも感じさせる“カールスバッド”という響き。次に石坂が案内してくれたのは、米国ゴルフ界の心臓部とも言えるその場所だ。

カールスバッドのテーラーメイド本社前に立つ石坂信也

石坂 信也(いしざか のぶや):1966年12月10日生まれ。成蹊大卒、ハーバードビジネススクールMBA。三菱商事に10年間在職した後に独立し、2000年5月 (株)ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)を設立。代表取締役社長。GDOはゴルフ総合サービス企業として、ゴルフビジネスとITを組み合わせた事業モデルを積極的に推進している。2004年東証マザーズを経て、2015年9月東証1部、2022年4月東証プライム市場。

―ここがテーラーメイドの本社ですね。次々とインパクトのある新製品を開発するのは本当にすごいです。

「アメリカの何がすごいって、自分たちのコアビジネスを真剣に一生懸命やっているんだよね。事業に対する集中力があるから、あまり総合商社とか、コングロマリット(巨大複合企業)がはやってない。日本はある時期まではモノ作りで良いポジションを保てていたけど、人、モノ、お金をゴルフだけに集中投入できていないように思える総合メーカーは、結果的に米国の専業メーカーとは差がついてしまった。本来、もっとポテンシャルは高いと個人的には思うんだけどね」

-専門的な方向にシフトすれば、まだチャンスがあるということですか?

「それも簡単な話ではなくて、中長期的なコミットメントでそれ相応の金額の投資が必要なのと、その投資に対して期待収益がどれくらいか?という見通しがないと成立しない。そういう意味では、かなりしっかりとしたビジョンと投資余力を持ち合わせていないと成功しない、生易しいものではないからね」

-やるからには、腹をくくって事業をやらないといけないのですね。

「そう。成長して、成功するためには“計算されたリスク”を取らなきゃいけないけど、今の日本は、どちらかというとリスクを広い範囲で悪いものとして敬遠しがちだと思う。リスクを取らなければ、チャレンジとかイノベーションはできるわけがないよね」

-GDOもそういうチャレンジはまだまだだと思いますか?

「俺が一定の範囲で関わっているところでは、やろうとしているつもりだけど…。アメリカのGOLFTECに投資するのも、当初どれだけ周囲に反対されたか」

-リスクが高過ぎるという評価だったのですか?

「あとは、本来ネット事業寄りなのにリアルを混ぜているとか。でも、ふたを開けてみたら、逆に“オムニチャネル”と評価されるし、コロコロ変わるわけだよ。それは、はやり廃りみたいなものだから、我々は事業主として今後どういうふうにお客さまにサービスを提供していくか?それが本当に求められることなのか?という部分を軸に判断していけばいい。まあ、実は今もいろいろアメリカでやっていて、俺も相当気持ちが振り回されているんだけどね(苦笑)」

-チャレンジしているのですね。

「うん。もちろん、やろうと思ってできるとは限らない。でも、やろうと思わなかったら、絶対できないから。やろうと思ってもできないかもしれないけど」

このインタビューから約2カ月半後の8月10日、GDOは連結子会社であるGolfTEC Enterprises,LLC(本社:米国コロラド州)を通じて、一般ゴルファー向け弾道測定器のシェア No.1 である「SkyTrak」の企画・開発・販売を行う米国SkyTrakグループから、事業を譲り受けることで合意し、契約を締結したと発表した。

続いて向かったのは、すぐ近くにあるキャロウェイ本社

-カールスバッドを一人で訪問することもあるそうですが、やはり本家本元に直接行くと手応えがありますか? そういうことをやらないと駄目なのですか?

「GDOがゴルフのECに本格参入した初期の頃は、日本法人に聞けば『その必要はない』って言われることも多かったと思うけど、うちが置かれている小売りの状況で言うと、使えるものを使って交渉しないと、なかなか入り口の突破口となるチャンスを作れなかったと思う。たとえば今、アメリカは(クラブ)ヘッドだけでも供給する訳であり、注文生産みたいな形を取って、あまり店頭在庫を置かないけど、日本はまだそこまで整備はされていない状況だよね。こっちに来ることによってそういう違いを知る事ができるのと、おいおい日本でもそのような展開の実現を後押しする役目も担えるかもしれない。それ以外にも、常にGDOや石坂を認知してもらうことも大事だからね」

-かつては突撃訪問もしたそうですね。

「創業初期にナイキゴルフの当時のプレジデントであるボブ・ウッドに、つてを使ってマスターズのオークツリーの下で待ち合わせをして会ったんだよ。当時、うちは卸経由でやっていたけど、いきなりGDO のやつがアメリカに行って、直接アメリカの社長に会ったということで、日本サイドには『勘弁してくれ』と言われたけどね」

-日本人は遠慮することが多いのでしょうか? 感覚的には直接アメリカ本社と交渉するのは、躊躇(ちゅうちょ)する人が多いと思います。

「うん、でもそれが決定的な理由なのかっていうと、そうじゃないと思うけどね。我々の未来を想像するとき、彼らと会うことは必然なんだよ。あくまでも例えばの話だけど、トップトレーサーはキャロウェイの事業だから、俺はキャロウェイの社長に『もう 1 歩突っ込んだ関係を作れないか?』とか定期的にトップトレーサーの話もしなきゃいけない。上層部でそういう話をすることで、新たな展開が見えてくるからね」

-それは石坂さんがアメリカにいる理由として、説得力がありますね。

「今はGOLFTECもすごく認められてきているから、我々もレバレッジを効かせて交渉に挑めるよね。これが小売りの仕事だけだったら、 GDOは大手量販店に比べればしょせん 6分の1とか5分の1かもしれない。その差は特にネットだとなかなか縮められないから、我々はやっぱり全方位外交的にいろいろやり続けなきゃいけないよね」

<続く>

サンディエゴにあるGDOの米国法人(GDO Sports)のオフィス
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取材・構成 今岡涼太

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