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【石坂信也のゴルフ未来日記 Vol.9】 場所も国境も超えて「市民化」するサービスを

GDOは昨年、国内事業の年間売上高に迫る約209億円の投資を実施して、本格的に米国事業へ乗り出した。それは、2017年に家族を連れて米国に移住した代表・石坂信也のビジョンが、ようやく自らの意思と身体を獲得して動き始めた瞬間だったとも言えるだろう。日本にいるとあまり見えない海の向こうの活動について、日本に一時帰国した石坂に話を聞いた。

五反田本社の執務室にて

――GDOグループの米国事業について、現状に対する率直な評価を聞かせてください。

2022年11 月にゴルフテック(GOLFTEC Enterprises, LLC)の株式を98%まで取得し、CEOのジョー・アッセルが持つ2%と合わせて経営を完全に掌握し、同時期にスカイトラック(SkyTrak)事業も買収しました。もともと2021-23年の 3カ年を「世界への挑戦」の第1フェーズと考えていましたが、ようやく米国事業の戦略作りが整って、推進し始めたところです。ゴルフテックのレッスン事業を土台にして、場所に縛られないデバイス(機器)でお客様との接点を広げていくのがスカイトラック事業であり、事業全体の骨格・輪郭も具体的にイメージできています。私自身が米国に来た5年前からこの状態を目指していたので、まだ全部の成果が出ているわけではないですが、ここまで到達できたことにとても手応えを感じています。

――米国事業の人材も充実してきて、特に経営層の採用が順調なようですね。

ゴルフテックは2025年に創業30周年を迎える歴史ある会社で、創業時からジョー(アッセル)がCEOとして率いています。GDOは2018 年に筆頭株主となり、スカイトラックをはじめ新しい血をどんどん入れていますが、これは我々の目指す次なる世界観に魅力を感じてくれて、主に業界内から優れた人材を採れているからです。

具体的には、まずジェフ・フォスターがスカイトラックのCEO、またゴルフテックのCSO(最高戦略責任者)として加わりました。彼はかつてゴルフチャンネルで「ゴルフナウ」という予約事業を、米国で圧倒的ナンバーワンの予約サイトに育て上げた人物です。人脈も豊富で、戦略的思考だけでなくチーム作りも卓越しています。それから、スカイトラックのCTO(最高技術責任者)として、USGA(米国ゴルフ協会)でCTOをやっていたガレス・ロンドも来てくれたし、オデッセイやイーデルでマーケティングとセールス、プロダクトまで手掛けていたクリス・コスキー、直近ではブッシュネルのプロダクトマネジャーだったジョン・デキャストロをチーフプロダクトマネジャーとして採用しました。これらの新しい人々はスカイトラック事業だけでなく、既存事業にも好影響を及ぼしてくれるでしょう。とても良いチームができ、メンバーの実力やポテンシャルに大きな可能性があると思っています。

――そういった優秀な人々はGDOグループが手掛ける事業のどこに魅力を感じて集まるのでしょう?

まず、ゴルフテックのリアル店舗が260カ所あり、今後は750カ所まで増やせると思っています。私の推測もありますが、グローバル展開する体験型サービスとして“オールデジタルではない事業体”であることに興味を持ってくれていると感じます。顧客基盤であり、ユーザーのリアルタッチポイントとしてそれだけの場所があるのは、魅力的に映るのでしょう。一方で、スカイトラックというデバイスだけで果たしてそこまで興味を持たれたか分かりませんが、「なぜゴルフテックがやるのか?」という可能性に非常に惹かれるのだと思います。

――その可能性とは、いわゆるGOLFTEC Anywhere構想(GTA)のことでしょうか?

はい。今まで培ってきたレッスンのノウハウに、デバイスで取れるデータを組み合わせれば、どこでもレッスンできるというのが元々のコンセプトです。レッスンにとどまらず、デバイス事業で最も優れたユーザー体験を実現できるポテンシャルを持つのが、ゴルフテックとスカイトラックの組み合わせだと多くの人々が感じているのだと思います。長年レッスンをやってきた人たちが持ち得るノウハウとデータをデバイスと組み合わせれば、誰よりも優れたオンラインサービスを提供できるという発想です。

――先にGTA構想があったから、スカイトラック事業の買収に至ったのですか?それとも、買収と並行して構想していったものなのでしょうか?

最初に「興味ありますか?」という話があったのは事実ですが、そこから一足飛びには行きませんでした。そもそも、ゴルフテック全体で約900 打席を持っていて、その全打席にフォーサイト社の弾道計測器GC2やGCQuadが入っています。フォーサイト社とはいくつかのシステム連携はしていますが、ただもう一歩、お客様にとっての利便性とデータ活用の最大化を図る上では、我々自身がそれらのデータを管理してソフトウェアとして統合を行うことが理想です。

デバイスを売るためだけに激しい競争に参入するなら、販売数を伸ばさない限り投資を正当化できませんが、我々が何を提供できるだろう?という発想から、自分たちが持っているものをデバイスに注入して表現できればサービスとして差別化できるし、付加価値を高められる。それが最終目的であれば買収する意味はあると考えました。それを分かりやすく表現するために「GOLFTEC Anywhere」と言い出して、いつの間にかGTA、GTAと合い言葉のようになっていきました。

――近年はTopgolfやPuttshack、POPSTROKEなどデバイスを活用した新ビジネスが次々に誕生しています。そんな中で、GDOグループの取り組みはどのような規模感になりますか?

これまでのゴルフテックは物理的な場所を借りて設備投資をし、コーチを雇わない限りお客様との新しい接点ができず、ゆえに一定の価格帯でしかサービスを提供できませんでした。よく使う例えは、へき地に億万長者が住んでいても、近隣にゴルフテックがなければ通いたくても通えない。一方で、ゴルフテックが目の前にあっても、お金を出せなくて手が届かないという両方のパターンがあるということです。GTAはデバイスを購入してもらえれば、へき地に住んでいてもサービスを享受できるし、より安価でレッスンを受けられます。進化したゴルフテックは今までの蓄積を生かしながら、店舗から解放されて顧客接点を無限に広げられるという考え方です。

日本国内のゴルフテックはまだ 12 カ所しかありませんが、GTAなら無人でも限りなく同等のサービスを提供できます。理屈上はもっと出店できますし、既存練習場や個人宅など、ゴルフテックの物理的な場所がなくても、ゴルフテックが培ってきたもの+α(プラスアルファ)をオンラインで提供できます。ある意味、これは我々が提供できるサービスの「市民化」なのです。レッスン体験者は我々の経験値で言うとせいぜいゴルファーの 2、3 割ですが、もっと増やすことができるでしょう。コロナ禍で一時期ゴルファーが増えましたが、なかなか定着していません。我々が今後生み出していくビジネスモデルは、そういう潜在顧客にとってもゴルフを身近にすることにつながると思っています。

米国事業が拡大し、国内事業への波及にも期待が高まる

――ここまでたどり着いた要因はチーム作りが大きいとのことですが、良いチームを作るために大切なことはなんでしょうか?

良いチームが作れた一番の要因は、何を目指すのか?ということに対して、英語ではよくノーススター(北極星)と言いますが、あくまでも概念的にGTAという言葉を発信して、これを実現しようと掲げたことが大きかったのかなと思います。それによって、みんなが漠然と「それだったら面白いね」と盛り上がった。「やってみたい」、「やれる」とジョーを含めて思ったこと。そこに早くからジェフが加わり、ジェフが持つビジョンを具現化する実行力とチーム編成能力を発揮して、個人や外部の協力会社や彼が持っているネットワークを上手に駆使してチームを編成できたこと。それが何よりも大きかったと思います。

<了>

取材・構成 今岡涼太

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