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【石坂信也のゴルフ未来日記 Vol.3】アメリカから見る日米ゴルフの共通点と大きな差。海外展開を加速し、日本国内に還元していく

2019年4月に開催されたマスターズで、タイガー・ウッズ選手が優勝を飾った。彼のマスターズ制覇は2005年大会以来5度目。メジャー戦では2008年の全米オープン以来、実に11年ぶりの勝利となり、その復活が日本でも大きく報道された。今回は現地で試合を観戦していた石坂に、この復活劇から紐解く日米におけるゴルフの位置付けや、ますます海外展開を加速させるGDOの今後の展望について聞いた。

石坂 信也(いしざか のぶや):三菱商事に10年間在職した後に独立し、2000年5月 (株)ゴルフダイジェスト・オンラインを設立。代表取締役社長就任。ゴルフ総合サービス企業として、ゴルフビジネスとITを組み合わせた事業モデルを積極的に推進。2004年東証マザーズを経て、2015年9月東証1部上場。月間総ビジター数1900万人超、現会員数は380万人を突破。 1966年12月10日生まれ。成蹊大学卒。ハーバード大学MBA取得。

 ——タイガー・ウッズの復活優勝は、日本でもワイドショーが取り上げるなど大きく報道されました。これはゴルフ業界において、どのようなインパクトがあるとお考えですか?

大きく2つの意味があると感じています。ゴルファー以外にでも知名度の高いタイガーが、スキャンダルを経て、スポーツ選手として10年ものブランクがありながらあのように素晴らしいカムバックを成し遂げたことは、スポーツの歴史の中でもあまり例のないことだったでしょう。まずはゴルフの出来事が世間に大きなインパクトをもたらしたこと、これがゴルフ業界にとって非常に大きな意味のあることだったと思います。

もう1つは、その復活優勝が、マスターズでの出来事だったという点。ゴルフ業界において、マスターズは4つあるメジャーの中でも格別な試合です。また、ゴルフ以外のスポーツイベントの中でも、マスターズはかなり独特で、かつ歴史を重ねる中で練りあげられてきた大成功イベントとして認知されています。実際のところ、タイガーの復活優勝は昨年9月のシーズン最終戦「ツアー選手権」でしたが、メジャーのしかもマスターズが舞台だったからこそ、今回の方が多くの人に“タイガーの復活劇”として印象強いことでしょう。私は、ゴルフ業界がそういうストーリーの舞台となる大会を持つ業界だと改めて認識する機会になったと考えています。

2005年大会以来5度目のマスターズ制覇したタイガー・ウッズ選手
(写真:GDOニュースより)

——社内SNSで、石坂社長が「マスターズは断トツに個性的で一流のエンターテインメントだ」とおっしゃっていました。他のスポーツの大会に比べ、マスターズの面白味やエンタメ性はどのあたりにあると思いますか?

マスターズが独特なのは、試合以外にさまざまな要素が盛り込まれているから。月曜日から始まる日程のうち、月~水曜日の練習日はカメラを持ち込んで誰でも写真を撮ってOK。さらに、水曜日には短いコースを選手が自分の家族や子供らを連れてプレーする「パー3コンテスト」と呼ばれるミニ大会があり、選手の技術の高さや選手と選手の関係性、選手と家族の関係性などをパトロンと呼ばれるギャラリーたちに垣間見せてくれます。結果的にかもしれませんが、世代や性別を超えて同じコースでプレーでき、プレー中の会話も楽しみの一つとなっているゴルフの競技特性を踏まえた様々な仕掛けが、“祭典”の一部となり、大会を盛り上げる要素となっています。

一転、木〜日曜日の本戦では一気に雰囲気が変わります。スマートフォンなどの通信機器は厳重なゲート管理により一切持ち込み禁止となり、選手はもちろん、観客も一日中スマホ無しで過ごします。観客は外部からの情報が遮断された環境で、目の前の選手達が紡ぎ出す展開を自分の五感を最大限生かして想像したり、ストーリー付けしたりしながら楽しみます。スポーツの大会ではありますが、まるでブロードウェイの舞台のようなエンタメ性があるんです。

もちろん、ゴルフの大会としてのスタンダードや最先端という視点での設備投資を毎年続けてきたからこその今ではありますが、特に近年は、エンターテインメント性という視点も持ちながら、舞台となる会場を作りこみ、オペレーションもブラッシュアップしてきています。これこそが、マスターズが他のスポーツと比べて特徴的な部分だと思います。

マスターズのエンターテイメント性について語る石坂

――さて、石坂社長は約1年前にアメリカにも居を構えました。いま、日本とアメリカのゴルフの位置付けについて、どのようにご覧になっていますか?

そもそも、アメリカは日本より格差社会であることも絡んでいますが、幅広い自由・個性や自主性を尊重し、多様性を許容する土壌があることが大きく違います。日本は「中間」で「均一」だと言われている通り、アメリカに比べてその多様性・許容の幅は限定的だと感じます。

これは、ゴルフも同じで、社会的・経済的に成功を収めた限られたメンバーで成り立つ会員制クラブ等、日本と同様に伝統や歴史を重んじる部分もある反面、本当にカジュアルに、敷居低くゴルフができたりもして、楽しみ方や楽しむ人々の属性が多種多様です。一方、日本はまだそこまでの多様性の幅は無いですよね。

それと、もう一点、アメリカでは広く文化としてチャリティやボランティアが根付いています。先出の会員制クラブのメンバーのように成功している人々には、自らの務めとして社会に還元していく考え方が浸透していて、税などの制度面も整備されています。

ゴルフでも社会全体へ貢献していく点で圧倒的に厚みが違います。アメリカではトーナメントが興行としての社会貢献という位置づけが歴史的に確立していて、1940年代から今まで男子トーナメントでは寄付額が約3000億円と言われています。ゴルフがゴルファーのためだけでなく、社会還元もしていくということがすごく進んでいるのです。日本でもチャリティを継続している大会はありますし、特に震災を経て以降は意識も高まりつつありますが、社会貢献やチャリティを文化として語れるほどのベースはまだありません。ゴルフのスタイル自体の多様性だけでなく、ゴルフが持つ社会的な位置づけや、社会貢献の実績というところで、日米の差は非常に大きいと思います。

ゴルフの社会的な位置づけは日米で大きく違うようだ
(写真:GDOニュースより)

――ご自身の現地での生活はいかがですか?

まだ全然慣れないですね。例えば、日本だと「この日は子供の遠足だから休む」と正面切って言いにくい雰囲気がまだまだあると思いますが、アメリカでは堂々と個人の事情を言い訳がましくなく言ってきます。社長クラスの人でもそうですね。最初は驚きました。

アメリカでは人生の優先順位で、各自の当然の権利として、プライベート・家庭を優先し、重視するのが当たり前だという思想が根底にあって、この基本的な考え方の出発点が日本と全然違うと感じています。日本だと今も有給消化の義務化や働き方改革など、何でもルール化して、レールを敷いて、そうでないとやってはいけない空気です。

高度成長期以降の社会の優先順位のせいもあるのでしょうか? 社会のシステムとか、会社の取り組みレベルではない、個人レベルで浸透している出発点の違いですから、単純に文化の違いなのかもしれません。私自身は、この違いの理由が何なのか正直まだわかりません。プライベートを重視する彼らに違和感を覚える自分もまだいますから、長年染みついた日本の商習慣や生活習慣は1年程度では変わらないということでしょうね。

現地での生活文化の違いに初めは驚いたという

――ところで、なぜアメリカにも拠点を構えようと思ったのですか?

やはりゴルフ業界の中心だからというのが一番大きな理由です。それと、海外展開を進めるのは、テクノロジーやビジネスの変遷という点で日本国内だけでは刺激不足だという理由がもう一つあります。日本はこの30年間デフレで実質成長が止まっていて、可能性への投資も評価されませんし、人口も減り始めています。

その点、アメリカですと人口自体が増えていますし、先ほどのように、スポーツやエンターテインメント、レジャーに対する概念や感覚が多様で自由で大変刺激になります。実際にアメリカへ来てみて、日本との感覚の大きな差を肌で感じるようになり、私自身も衝撃を受けました。これは出張ベースでは分からないと思います。

この多様な感覚に触れなければ、これからのビジネスは創造できないと思うんです。だから今後は英語の得手不得手に関わらず、短期でもいいので、社員にもどんどんローテーションでアメリカに行ってもらおうと考えています。幅広い視野や視点、刺激を1人でも多くの社員に、現地で早く触れてほしいですね。

日本の中だけにいれば、みんな時間も約束も守るし、安心で居心地がいい。でもこの感覚はすでに日本独自で、世界的にはかなり特殊です。近い将来、確実に、世界でもやっていく、海外に伍して日本から出ていく展開が必要となると確信しています。逆に国内に海外勢が入ってくる可能性も高いでしょう。

今後はさらに海外展開を加速させつつ、現地で得たインスピレーションや情報を日本に還元していきます。これまでやってきた海外の取り組み一つひとつは地道で、成果も地味なものでした。さまざまな事業の種をまいている段階だったので、中には批判的な声もあったと認識しています。でも私の中でようやく1つの兆しが見えてきました。この実績を踏まえて発信できるよう、準備を進めているところです。

 ――アメリカに飛び出した手ごたえは大きいですね。

私が社長としてアメリカにも拠点を持つのは、我々の今後の成長を考える上では間違ったやり方だと思いません。現地の正しい情報とマーケットの感覚を直に身に着けて、迅速な判断に結び付けられると同時に、日本のマーケットへいち早く新しい発想や情報を持ち込み、新たな展開が図れますから。

GDOが子会社化したUSゴルフテックでは、以前から私が取締役メンバーに入り、日本の発想を取り入れ、私自身の経験を基にアメリカ事業での助言を行っています。今後もUSゴルフテックを中心にアメリカ展開を積極的に手掛けていきます。

大変ですが、とても楽しみです。中長期的には絶対にGDOにとって意味があることだと確信しています。反論があったとしても、それを押しのけてでもやりたい。その信念をどうやって貫くのか、今後はそこが問われていくのだと思います。

「GDOで働く」ことにご興味のある方は、こちらから。

文・筒井智子 写真・角田慎太郎 構成・PLAY YOUR LIFE編集部/谷

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