story

福岡最古のゴルフ練習場 「道場」から「娯楽施設」へ転身中

福岡空港から車で10分という立地にあるグランドゴルフセンターは、1970年創業の現存する福岡県内最古のゴルフ練習場だ。2022年3月にトップトレーサー・レンジ(以下、TTR)を導入したが、奥行き250ヤード、2階建て全46打席という設備は一見どこにでもある地方の練習場そのものである。だが、侮ってほしくない。この施設の来場者たちは、ゴルフ練習場の未来を先取りしているかもしれないからだ。

平日の昼間でも打席の多くは埋まっている

2023年12月の1カ月間、日本全国のTTR導入レンジ(参加90施設)で「ニアピン王者決定戦」と銘打たれたイベントが開催された。屋外に設置された高性能カメラが打球を捉え、打席モニターに弾道や飛距離が表示されるのがTTRの特長である。イベントでは全国共通ホールとしてペブルビーチGLの87ヤードが指定され、ピンまでの距離が近いか、ホールインワン回数の多い人が上位となる。モニターには施設ごとのリーダーボードが表示され、各施設の王者には記念品と副賞が贈られる。実施期間中、グランドゴルフセンターは906人のイベント参加者を集め、首都圏にある300打席を超えるような巨大練習場も圧倒して、参加人数で全国1位に輝いた(※1)。

なぜ、そんなことができたのか? 

フロントリーダーの中原恵子さんは証言する。「11 月30 日に翌日からニアピン大会が始まるっていうお話を支配人から聞きました。ミーティングでイベントの意義や支配人の考えを聞いて、スタッフみんなで支えていこうってなったんです。でも、本当は私たち、11月3日に支配人が一人でやっているのを見ていたんです。めちゃくちゃ大変そうだけど何も言わないで、イベントの企画、営業まで一人で全部やっていて…。その必死に頑張る姿を見ていたから、スタッフにも一体感が生まれたのだと思います」

グランドゴルフセンターの吉原弘真支配人

全日本ゴルフ練習場連盟が制定した「ゴルフ練習場の日」の11月3日に行われたのは、ニアピンのワンデーイベントである。吉原弘真支配人は振り返る。「その時はまだスタッフが積極的にお客さまにイベント参加をお願いする習慣がなかったので、私が200 人ぐらいに声を掛けて約50 人に参加してもらったんです。常連のお客さまが『支配人、ホールインワン出たよ!』と喜んでくれたのが一番うれしかったです。お客さまがゴルフ練習場に求めるのは”楽しさ”です。イベント成功に必要なのは、お客さまにイベントを楽しんでもらいたいというスタッフの熱意です」。その熱意を支えるのは支配人の信念だ。

吉原支配人が理事長を務める九州ゴルフ練習場連盟は「1人でもゴルファーを増やそう」という方針を掲げており、練習場で球を打つ人もゴルファーと定義すれば、来場者を増やすことがシンプルにゴルフ界の役に立つ。では、どうやって増やすのか?「ゴルフをして良かったなと感じてもらえると、次に友だちや家族を紹介してくれます。TTRはその1つですが、ただ使うだけでは経験としては少し弱い。いろんなモードで遊んだり、過去の自分と比べたり、誰かと競い合ったりすることが大事です」と断言する。専用アプリを使いこなせばそんな世界に没入できる。その一歩を後押ししたいのだ。実際、データ上でもアプリ利用客のリピート率は高かった(※2)。しかし、物事は口で言うほど簡単ではない。

「ニアピン王者決定戦」に参加するには、専用アプリをダウンロードし、GDO会員に登録(ログイン)してからアプリでキャンペーンに参加して、ニアピンモードでペブルビーチGLを選択すると、ようやく打席で打った球が記録となる。中でも、アプリをインストールしてもらうハードルが高かった。12月、グランドゴルフセンターは腹を決めた。イベント参加者には初期設定に必要な15分から30分の延長料金を無料とし、コーヒー1杯をサービスした。スマホ操作が苦手な人はスタッフが積極的に手助けをした。

フロント担当の中原恵子さん

現場の臨場感は中原さんのコメントに委ねよう。

打席に入られる前にフロントでお話しするのが一番効果はあるんです。12月の寒い時だったのでコーヒーサービスも喜ばれました。登録が面倒くさいって言う人がいると『そうですよね、面倒くさいですよね』と言って『じゃあやってよ!』となったら、ありがたくこちらでやらせてもらうんです。

最初からどんどん楽しくなっていきました。2階から20代くらいのお客さまがダーッて興奮して降りて来られて「どうしたんですか?」って聞くと「見て!見て!ホールインワン!」ってスマホを見せてくれて「わー」ってみんなで拍手したり。0.7ヤードっていう記録を出した人もわざわざ降りて来て「惜しかったぁ!」って。年代を問わず、とにかくすごく楽しそうでした。

ニコニコして練習しているのもうれしいですよね。全然違いますもんね。「自分の打ったのどうすると?」って言うから、打席まで行って「こうするんですよ」って教えてあげると「あー、自分のこれが分かると!記録になると!」って喜んでくれて。それがすごくうれしかったです。

12月、グランドゴルフセンターの来場者は早朝のセルフ営業を除いて3291人(同じ人が複数回来場しても1人とカウント)だった。期間中、約3人に1人がイベントに参加して、552人が新規にアプリをインストールした。「他の練習場と競い合うと聞いたので」と吉原支配人はいたずらっぽく笑って言う。「始まった瞬間に他の練習場で何人登録しているか見えるんです。だから、他の練習場に負けたくなかったです」。大みそか、1位を争うゴルファーは午後11時半の閉店まで6時間、3000球以上を打っていたという。だが、競っていたのは客だけではない。支配人もスタッフも、他の練習場と競うことを真剣に楽しんでいた。

客はなぜゴルフ練習場に来るのだろう?

吉原さんが支配人になったのは2007年。創業者である父は「お客さまには上手くなってもらわんといかん」と、ゴルフ練習場を『道場』のように考えていた。かくいう吉原さん自身、当初は客の求めるものが分からなかったが、最近は一つの確信があるという。「結論を言うと、脳内で快楽物質を出したいからお客さまは練習しているんじゃないかなと思っています」

一昨年にTTRを県内初導入すると、客層は若返り、商圏も広がった。ゴルフ場には行かないが、月に数回、球を打つことで満足するライト層も顕著になった。そんな人々に「なぜゴルフ場に行かないのか?」とたずねるのは野暮である。「それってカラオケを歌っている人に『なんで、のど自慢大会に出ないんですか?』って聞くようなもんですよ」と支配人。『あそび』には人それぞれの楽しみ方がある。カラオケ屋に楽器を持ち込むガチ勢しかいないより、ビールを飲んで聴くだけの人がいる方が自然である。カラオケやボーリング、その並びにあるゴルフ練習場という選択肢。

「やっぱり道場じゃなくて、娯楽施設なんですよ」

そう考えれば、やるべきことは見えてくる。例えば、単に血中アルコール濃度を高めるために居酒屋に通う人はいないだろう。それなら自宅で飲めばいい。そこに楽しさがあるから何度も足を向けるのだ。TTRには秘めた可能性が詰まっている。それはゲームであり、エンタメであり、インターネットを介して世界中につながっている。吉原支配人の言葉を借りれば「お客さまが快楽物質を出しやすい環境を整えてあげること」が大切なのだ。ゴルファーの自尊心や承認欲求をくすぐる方法は、まだごまんとある。

創業から55年。ゴルフ練習場はどんな未来を作っていくのか?

グランドゴルフセンターでは最近、300円の同伴料金を支払って複数人で1つのベイを使う人たちが増えている。みんな誰かと一緒にあそびたい、誰かに頑張っている姿を見てもらいたいのだ。「本来ゴルフは、みんなでワイワイやった方が楽しいに決まっているんです。レモンサワーを飲んで、唐揚げを食ってみたいなのでいいと思う」と支配人。現状は設備的に実現できていないものの「もう55 年目ですからね。雨漏りもしているし、さびているし…」と建て替え工事も視野に入れる。県内最古の練習場は、どんな施設に生まれ変わろうとしているのか?「来場者が望むんだったら、それに合わせるだけですよ」と主役はやっぱり“お客さま”だ。

<了>

※1 「ニアピン王者決定戦(2023年12月)」ユニーク参加者数(同じ人が複数回来場しても1人とカウント)
1位 906人 グランドゴルフセンター(福岡県)
2位 638人 ゴルフ倶楽部大樹 瀬戸(愛知県)
3位 602人 トーキョージャンボゴルフセンター(東京都)
4位 391人 ロッテ葛西ゴルフ(東京都)

※2 専用アプリ利用客のリピート率
2023年12月の国内TTR導入施設の平均来場回数は2.9回/月。一方で、2022年レジャー白書(公益財団法人 日本生産性本部)による「ゴルフ(練習場)の年間平均活動回数」は19.7回(1.6回/月)

写真・文 今岡涼太

この記事をシェアする