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児童が短くなった鉛筆を集めて寄贈 教育とゴルフ場の出会い

桜のつぼみはまだ固い39日、茅ヶ崎市立浜須賀小学校の校庭には、あふれんばかりの元気を抱えた6年生133人が集まっていた。これから午後の半日を「卒業記念Special Days」としてGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスで遊ぶ。出迎えに行った私は靴底から伝わる乾いた土の感触に、かつて膝やひじを擦りむいて作った数々のかさぶたを思い出していた。そんな日常に比べたら、ふかふかの芝生が一面に敷き詰められたゴルフ場はまるで天国みたいなところだろう。

開会式で東日本大震災の被災者に祈りを捧げる児童

いつもはフェンスに閉ざされた避難口を抜け、ゴルフ場の敷地に入る。開会式は、東日本大震災の被災者への1分間の黙祷で始まった。続いて松永忠弘校長が呼びかける。「地域にある GDO 茅ヶ崎ゴルフリンクス様が、一般のお客様を半日お断りして皆さんのためにイベントを開いてくださっています。このつながりに感謝して、6年間一緒に過ごした仲間たちと新たなつながりを作りましょう」。ふと、ここにいる児童たちはあの震災があった12年前に生まれたことに気がついて、時の流れに身震いした。

ゴルフのアプローチ体験。うまくできるかな?
フットゴルフでうまくカップインして大はしゃぎ!

用意されたゴルフとフットゴルフの各ゲームはチーム毎に点数を競う。それだけが理由ではないだろうが、子どもたちはお互いよく助け合っていた。ゴルフクラブをうまく扱えない子がいたら、みんなでどうすればうまくいくか助言する。カップインを目指すフットゴルフなら、狙うラインや蹴る強さをみんなで考えて共有する。

松永校長は<目指す子ども像のキーワード>として「こころ(共生・助け合う)・つくる(想像・創造)・自分から(主体性)」という3つの言葉を教えてくれた。大切なのは押し付けることなく、子どもたちで考えるように導くこと。今回、校長からGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスのペグシル(鉛筆)が使い捨てでもったいないという課題を聞いた、同校児童で構成されるSDGs委員会は、短くなった鉛筆を集めて寄付するというアイデアを自主的に考案して、実行した。

SDGs委員会が集めてくれた短くなった鉛筆たち

SDGs委員会の中山仁愛(なかやまにあ/6年生)委員長とメンバーらは、校内のいたるところにティッシュの空き箱を再利用した回収ボックスを設置して、告知ポスターを掲示した。朝の自習時間には1年生から6年生まで全クラスを回って協力を呼びかけた。「友達が『鉛筆入れたよ!』とか言ってくれて、うれしくなりました」と鹿川紗更(しかがわささら/6年生)副委員長。回収開始から2ヶ月ほどで約800本の鉛筆が集まった。

この日、SDGs委員会から短くなった鉛筆を受け取ったGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスの伊藤修武ゼネラルマネジャーは、お返しに花が咲く鉛筆をプレゼントした。これは、使い終わった鉛筆を土に植えると、芽が出て花が咲くというもの。鉛筆からいったいどんな花が咲くのだろう?想像力を刺激された児童たちは驚きの声をあげていた。

SDGs委員会とGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスの伊藤修武ゼネラルマネジャー

始まりはコロナ禍だったが、それはきっかけに過ぎなかった。そこに「教育として広がりのある活動をしたい」という松永校長の構想が重なって、学校とゴルフ場のつながりは発展を続けている。昨年は3年生が社会科の学区探検としてゴルフ場を探索した。一般開放された星空観察や昆虫観察でゴルフ場を訪れた児童も少なくない。SDGs委員会の活動も、地域のゴルフ場を舞台として実生活に根付いた教育そのものだ。

浜須賀小は来年度からコミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)化し、地域の人々の意見を取り入れた学校運営に変わっていく。松永校長は「協議会委員の 1人として、伊藤(修武)さんに来年度、お願いをさせていただこうと思っています」と打ち明けた。「学校との結びつきで、いろいろなお知恵やアイデアを頂戴できれば、もっともっと活動を広げていくことができるかなと思っています」

GDO茅ヶ崎ゴルフリンクスと近隣小学校の交流のきっかけを作っていただいた浜須賀小の松永校長

わずか3年でここまで深まった地域の小学校とGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスとの関係性。今年で定年となる松永校長は「まだスタートラインに立ったばかりですが、種はまかせて頂きました」と胸を張った。この取り組みにどんな花が咲き、どんな実をつけるのか? そのときを楽しみに待ち続けたい。

<了>

写真・角田慎太郎 文・今岡涼太

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