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想像以上に「ガチだった」 初めてのハマド国王杯ゴルフ選手権参戦記

「6日間、毎日楽しかったです。ワクワクで最高の時間でした」と目を輝かせた藤木康二さん。「チャンスがあったらまた絶対に出たいです。絶対に出たいけど、僕の勘ではこの記事が出たらGDO(シングルスチャンピオンシップ)のレベルは一層上がってしまうと思います」と独りうなずいた斉藤優弥さん。これは11月26日に閉幕した「ハマド国王杯ゴルフ選手権」に初出場した2選手の率直な感想である。

バーレーン開催の「ハマド国王杯ゴルフ選手権」

バーレーンゴルフ協会と提携し、GDOシングルチャンピオンシップの全国大会上位2人に出場権を付与することになって初めてのハマド国王杯である。今年が第14回大会であることは知っていたが、世界17カ国から出場選手が集まることや、全体の約3分の1に制限したプロが各組に必ず1人以上いて、近隣諸国のアマチュアと同組で回ること、バーレーンという国がいかに安全で(実際、財布とパスポートを空港に置き忘れた選手がいたが、そのまま手元に戻ってきた)、人々がどれほどフレンドリーか(海岸を歩いていると地元漁師が獲ったばかりのワタリガニを袋一杯に譲ってくれた)なんてことは知らなかった。

ホール間のインターバルでパイプラインを越えていく

会場となったロイヤルゴルフクラブはバーレーン唯一の芝の18ホールで、コリン・モンゴメリー設計による7,243ヤード(パー72)のチャンピオンシップコースである。起伏に富んだフェアウェイの両脇は小石混じりの乾いた土か、原油が流れるパイプライン(動かせない障害物扱い)というユニークな光景で、グリーンは激しいアンジュレーションに芝目の強いパスパラム芝、上がり4ホールは池が絡んで格段に難度が上がるというセッティングだ。

定年を過ぎ、長年勤めた会社を今年末で退職予定の藤木さんは、7月の提携発表ニュースで今大会を知ったという。時間的に融通が利くこともあり、「職場やゴルフ仲間から『バーレーンに行ってこい!』って乗せられちゃってね」と頭をかく。「そんなそんな言いながら『ひょっとして行けたらうれしいな』みたいには思っていました」と、淡い期待を抱きながら出場した中部地区の予選会を見事突破。全国大会で2位となって「こりゃ行くしかない」と覚悟を決めた。

懸命にプレーする藤木康二さん

とはいうものの、バーレーンはおろか、手引きカートも、プロと回ることも、3日連続でのラウンドも初体験。予選ラウンドで同組となったのはディフェンディングチャンピオンのアハメド・マルジャン(モロッコ)とレアド・シェパード(イギリス)というプロ2人で、ティショットでは毎回100yd近く離された。普通なら雰囲気に飲み込まれてしまいそうだが、「あまりに次元が違うので気持ちがいい」と藤木さんはマイペースを貫いた。

飛距離の差に屈せず、最後まで戦い抜いた

座右の銘は「頼まれごとは試されごと」で「何があっても断らずに、ずっとサラリーマンを続けてきた」という藤木さん。丁寧にパーを拾う姿に「初日はレアドがいろいろ親切にしてくれて、2 日目は自分には激しい言葉連発のアハメドが、僕がそこそこ良いショットを打つたびに声を掛けたり、手をたたいたりしてくれた」と彼らも一目置き始めて、カタコトの英語ながら組の雰囲気は友好的。距離の壁には太刀打ちできず予選落ちに終わったが、「ちょっとムラはあったけど、7、8割は良いショットが打てました」と胸を張った。

斉藤優弥さん ちょっとしたプロ選手みたい?

もう一人の出場選手、30歳の斉藤さんだって負けてはいない。ハマド国王杯を知ったのは、全国大会のアテスト時。最終ホールでダボをたたき、カウントバックで4位となって「多分ないな…」と思っていたが、2日後に繰り下がりの連絡が来て「マジか…。いや行くっしょ」と即決した。「行ったことのないバーレーンだし、海外でプロと回れる機会なんて、もう絶対にない。日程も大丈夫。俺はもう“秒”でしたね」と、その後の行動も早かった。

懸念したのは<手引きカートでプレー>という項目で、キャディを付けたいと画策した。自身のSNSで出場決定を報告しつつ、“緩く”スポンサーを募集すると、JASPEX株式会社と雅飛ゴルフ、そして前座の落語家・桂空治さんが協賛についてくれた。その支援で渡航費を捻出して、キャディを帯同して乗り込んできた。キャディバッグとウェアの袖にはスポンサー名が輝いている。準備は整えてきた…はずだった。

予選落ちを悔しがった

だが、フィールドには中東を転戦するMENAツアー出場プロや、タイや台湾のナショナルチームメンバーがそろっている。友人キャディの黄敬叡さんの力を借りながら戦ったが、「想像以上にレベルが高いというか、イメージよりガチだった」と予選通過の壁は厚かった。「それでこのザマ。本当にごめんね」とキャディに詫びたが、現地で感じた大会の想像以上のレベルの高さは、初めてハマド国王杯の現実を知った我々にとっても同じだった。


そもそも「なぜバーレーンなのか?」という疑問に答えておこう。当初、「GDOシングルスチャンピオンシップ」の参加者に「挑戦」や「未知の体験」といった新たなモチベーションを提供したいと模索していたところ、バーレーンゴルフ協会が真っ先に手を挙げてくれたのがきっかけである。その思いは、実際に大会に参加して、現地で協会幹部と話すことによって明確になっていった。

優勝したトム・スローマン(中央後方)と入賞した選手たち

バーレーンのゴルフ場(※)は、市街から少し離れた半径3キロほどの圏内に固まっている。協会は市街のショッピングモールにミニゴルフ場を作ったりして普及に努めているというが、一般市民にとってゴルフはまだ馴染みのあるアクティビティではない。と同時に、バーレーンゴルフ協会は、協力関係にある近隣諸国や自国のアマチュアにトップレベルのプレーに触れる環境を提供して、地域のゴルフを底上げしたい。だからこそ、極東のゴルフ大国として名高く、世界アマチュアランキング1位や、マスターズ覇者を生み出す日本からも選手に参加してほしかったのだ。「普及」と「育成」という2つの課題と向き合うとき、国内最大の大会を活用するのは自然の流れだ。

アナログなリーダーボードも良い雰囲気

同協会のドゥエジ・ハリファ副会長は、日本から初参戦した私たちを歓迎して「友情を基盤とした相互の協力関係にも期待している」と手を握ってくれた。その言葉を手土産に、私たちは後ろ髪を引かれる思いで、日本への帰途に就いた。

<了>

コース内で原油を汲み上げているオイルウェル

※バーレーンにはロイヤルGCのほか、サンドグリーンの2コース(アワリGCとバーレーンGC)があり、国王の敷地内にも9ホールのショートコースがあるという。

※「ゴルフテック by GDO(ミタナラバコウタロウ)」のYou Tubeチャンネルでも大会の模様をお届けします!

◆2022年「ハマド国王杯ゴルフ選手権」大会結果
優勝 -13 トム・スローマン(イギリス)
2位 -10  ジョシュア・ホワイト(イギリス)、@ヒュー・フォーリー(アイルランド)
(カットライン +6)
MC +20 @斉藤優弥
MC +23 @藤木康二

写真・文 今岡涼太

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