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慶応義塾の中学ゴルフ部が茅ヶ崎でラウンドデビュー 部活動の地域移行の可能性は?

慶応義塾普通部(中学、横浜市港北区)ゴルフ部顧問の那波克哉教諭は悩んでいた。毎年秋に実施している2泊3日のラウンド合宿はコロナ禍で3年連続中止となり、このままでは現3年生は部としてのラウンド機会を持てないままに卒業を迎えてしまう。そんなときに見つけたのが、GDO茅ヶ崎ゴルフリンクスで実施している「初心者ゴルファーサポート企画」だったという。

この日、ゴルフ場デビューを果たした部員が約半数

9月1日、2台のマイクロバスに分乗して茅ヶ崎を訪れたのはゴルフ部所属の28人。3年生4人、2年生10人、1年生14人という構成は、ここ数年のゴルフブームを象徴しているとも言える。

同校は学業優先が基本方針で、ゴルフ部の活動は平日2回、校内のテニスコートやグラウンドに人工芝マットを敷いてアプローチやショット練習を行うのが日課である。部員の約半分はこの日が初ラウンドとあって、ちょっと浮かれ気味に見えるのは仕方がない。

今回、いくつかあったゴルフ場から茅ヶ崎を選んだのは(1)学校から近いこと、(2)大人が帯同してくれること、(3)パー5もある本格的なコースであることがポイントだったと那波教諭が教えてくれた。実際、中学生だけでコースデビューさせるのは不安だが、各組に教員を帯同させる余裕もない。当企画では各組にゴルフ経験者(サポーター)が付き添って、周囲への配慮、目土の仕方、ピッチマークの直し方といったラウンド流儀も教えている。普段は1日3組程度に限定しているが、この日は8組という大所帯。それでも、社員有志がすぐに集まって対応できるのが、GDOのゴルフ専業企業としての強みでもある。

実際のコースと練習場で打つのはまるで別物

部員たちにとっては、憧れのゴルフ場である。最初は緊張している様子だったが、思い切りの良いスイングは、若者ならではで爽快だ。普段打つ機会のない深いラフや、慣れないグリーンのアンジュレーションに苦労しながらも、すぐにコツをつかんでいく。茅ヶ崎での一日が彼らのゴルフ人生にどんな変化をもたらすのかと想像すると見ているこっちまでドキドキしてくる。「ゴルフをもっと好きになってもらいたい」というサポーターの願いが届いてくれると良いのだが…。

近年、休日対応を求められる教職員の負担や競技の専門知識を持つ人材の不足を理由に、スポーツ庁が旗振り役となって中学部活動の地域移行が進められている。「地域に開かれたゴルフコース」を運営方針とするGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスも、これまで様々な場面で地域の子どもたちを受け入れてきており、ゼネラルマネジャーの伊藤修武は「部活動の地域移行が本格化してくれば、行政や教育委員会とも連携しながら、これまで以上に積極的に取り組んでいきたい」と前向きだ。それでも、指導者の確保、大会のあり方、参加費の負担など部活動の地域移行を永続的な活動にしていくためには、クリアすべき課題もまだ多く残されている。

部員の胸のエンブレム。慶応ロゴにゴルフクラブがあしらわれていてかわいい。

慶応義塾普通部ゴルフ部として、地域移行はまだ差し迫ったニーズではないという。学業を優先しながら「本格的に始まる高校の部活動の準備として、まずは仲間を作ってほしい」と、ゴルフに触れて、その楽しさを知ってもらうことに主眼を置いているからだ。「また、冬に来ようか?」という那波教諭の問いかけに飛び上がりそうに喜ぶ生徒たちの姿を見て、きょうはその目的が無事に達成されたことを確信した。

<了>

写真・文 今岡涼太

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