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ゴルフ専業・茜浜倉庫のPlay Fairな日々

4月の陽光にきらめく東京湾を眺めながら、電車は新習志野駅に到着した。これから新卒入社組13人と待ち合わせて、自社の物流センターを見学する。GDOフルフィルメントセンターが正式名称だが、社内では“茜浜倉庫”と呼ばれる施設。改札を抜け、駅前のバス乗り場で若者たちと合流して現地に向かった。

GDOショップで購入された商品は、ここから発送されていく

2000年に創業したGDOが、EC規模の拡大を受けて舞浜(千葉県浦安市)に自前の物流倉庫を確保したのは2004年のこと。それまでは注文が入ったらメーカーから顧客に直送してもらっていたが、以降はゴルフ専業倉庫として地道に生産性を高めてきた。06年に茜浜(千葉県習志野市)に移転。例えばRFIDという、電波を用いてICタグの情報を非接触で読み書きする自動認識技術の導入は、検品作業のコストと時間を大幅に削減した。

Genesys(奥)の説明をするSGLの兼平さん

国内初導入という、荷物に合わせて段ボールの縦、横、高さを自動的に変えながら組み立てるイタリア製の三辺可変自動梱包機Genesysの隣には、商品棚から指定されたモノを素早くピックアップする自動倉庫があり、階下では商品棚自体を作業員がいるところまで運ぶ棚搬送型AGV(Automated Guided Vehicle)が稼働している。長年GDOの物流実務を担う住商グローバル・ロジスティクス株式会社(以下、SGL)の物流技術管理士・兼平純さんは「Genesysの導入により過剰な資材や緩衝材を削減できて環境に優しいですし、自動化による省人化、効率化のメリットも大きいです」と教えてくれた。

だが、私たちの目指すサービスは自動化だけでは実現できない。GDOリテールビジネスユニット業務推進部長の室井孝は「通常配送で満たされるなら自動化に乗っかるのがいいと思います。ただ、それだけだとゴルフ専業の我々が応えたい顧客ニーズや差別化を実現するのは難しいんです」と言う。通販大手や大型量販店に比べて規模で劣るGDOは専門性と小回りの良さで対抗し、幅広い顧客ニーズに柔軟に対応しようと努めている。それは受注後にひと手間加えて出荷する流通加工など“オーダーメイド物流”と呼ばれる仕組みである。

プロギアのドライバーとヘッドカバーを持つ室井孝

室井は「これをやるにはどうしたらいいですか?と常にSGLさんに投げかけながら一緒に考えていくやり方です」と言い、兼平さんも「自動化の流れはありながらも、荷主様の細かいニーズに応えていくというポリシーです」と受け止める。できるだけ規格を統一する自動化とは対照的な考えだが、「そこはゼロイチじゃないと思うんです」と室井は続けた。

最近手掛けた取り組みの一つは、株式会社プロギアと実施した、顧客がドライバーのヘッドカバー「ありなし」を選べる販売方法である。メーカーアンケートでも、ヘッドカバー「なし」での購入に興味を持っている人が3割というデータがあり、1カ月限定でトライアル販売を行った。その作業は「ヘッドカバーなし」の注文が入ったら、倉庫にある在庫(通常はドライバー本体とヘッドカバーが同梱されている)からヘッドカバーを抜いて、発送に回すというアナログなもの。顧客満足向上に加えて、サステナビリティにも貢献できる施策であり、実施範囲を広げられないか検討を続けている。

細かくサイズ分けされた梱包用段ボール

現在は梱包用段ボールを20種類ほど用意しており、2021年1月には新たにドライバー用より短く、アイアン用よりも長いユーティリティ用の箱を追加した。適切な大きさの箱に入れることで運送費を下げられ、資源の節約にもつながる。ただし、自動で対応し切れないこれらの商品の梱包は、やはり“人力”がモノを言う。梱包作業を行うデスク横にはクラブの長さを測れる物差しが置かれていて、それを基準にスタッフが使う箱を判断していく。2004年から働くアルバイトスタッフもいて、「(異動のある)私たちよりもGDOさん目線で働いている方が多いですね」と兼平さんも頭をかいた。

まだまだある。中古クラブの査定や商品化、新品クラブの工房業務、アパレル商品ではメーカーごとのサイズ表記のブレをなくすために独自サイズを計測し、「秋冬モデル」という表現から一歩踏み込んだ適正気温で表現するなど、倉庫内部ではGDOスタッフによる細かな人力作業も行われている。省人化が加速する一方で、倉庫としての価値や強みを生み出しているのもまた人なのだ。

商品撮影を行うGDOスタッフたち

GDOは組織で共有する5つの価値観を定めており、その中に「Play Fair」という言葉がある。「フェアに向き合う」というその意味は、一方的に利を得るのではなく、顧客や取引先と公正に向き合って共存・共栄を目指すこと。顧客には高い利便性を提供し、メーカーにとっては単なる卸先ではなく、新たなサービスを共に創造できるパートナーでありたいと願う。茜浜倉庫の取り組みは、顧客、メーカー、物流業者、GDOそれぞれの理想を混ぜ合わせ、最適解を求め続ける作業とも言えるだろう。

西田康彦さん(左)と斉藤桂子さん(右)はともに20年近く茜浜倉庫に勤務している

新卒組の見学も終わるころ「茜浜で働いてみたい人?」と聞いてみると、その熱意に感化されたかのように3人が手を挙げた。「今日の倉庫見学で物流のイメージが大きく変わりました」と、ある新入社員は目を見開いた。「大変な力仕事で泥臭いイメージだった物流が、頭を使い、効率を求める最先端でスタイリッシュなイメージに変わりました--」。最初は地味に思えた倉庫が、先端技術と人力を融合し、競争力の高いサービスを生み出す洗練された職場だったという驚き。それは、オフィスではあまりパッとしないおじさんが、ゴルフをやるとめちゃくちゃうまいという驚きに似ているような…いや、違うか。

<了>

写真・文 今岡涼太

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