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♪泣かれたこともある パーリーゲイツ販売員の研修をサポート

レディスファッションを中心に50以上のブランドを展開するTSIホールディングスグループで、ゴルフアパレル販売を担当する角佳昭(かく・よしあき)さんは、時代の変化をしみじみと感じている。脳裏に浮かぶのは、これまで配属発表で流されてきた新入社員たちの涙である。

研修はゴルフクラブの握り方からスタート

「やっぱりみんなファッションが好きでうちの会社に入ってくる。だけど、配属はみんなの希望通りにはいかないんです。自分がゴルフアパレル配属だと分かると、昔はよく泣かれました」と、ファッションブランドと比べて、一段低い存在に見られていた過去を思い出す。「でも、最近はゴルフを希望して入ってくる子もいるんです」

パーリーゲイツ、ジャックバニーといった人気ブランドを抱え、いまやテレビに映る女子プロゴルファーばかりでなく、熱狂的な“ゴルフ女子”たちがSNS上でブランド認知を高めている。ジムやヨガといった室内のアクティビティが難しくなったコロナ禍も追い風となり、ここ数年は日本全国にある販売店に新規顧客が押し寄せている。

熱視線

とはいえ、店舗で働く販売員の中には、ゴルフ経験がほとんどない若手もいる。パターグリップまで扱う店頭で「どうやって交換すればいいですか?」と聞かれて、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しかできなかったり、「この時期はどんなアウターがいいですか?」という質問に会話のキャッチボールが続かなかったりしていては、せっかくの好機も失いかねない。

そこで、TSIは入社1~2年目の販売員を対象とした“ゴルフ研修”を実施することにした。同社はこれまで、九州や関西、東海でゴルフ場を使った新人研修を行ってきているが、プレー需要が高い関東圏では受け入れコースが見つからなかった。だが、「ゴルファー創造」をミッションの1つに掲げるGDOにとって、この研修はチャレンジしがいのある企画である。GDO茅ヶ崎ゴルフリンクスの最終組から数組分の枠を確保して、クラブハウス内見学ツアーもプログラムに組み込むなど、全面協力して“関東初開催”を実現させた。

教わったことをしっかりメモに取っていく

研修当日は、2月とはいえ快晴無風のゴルフ日和。カラフルなウェアをまとった約20人の集団は、周囲の視線を引きつけて、そこだけ少し気温が高いようにも思えてくる。ゴルフが初めてという子も多いので、まずは基本練習から。講師の大田原さつきプロが、クラブの握り方や、スイングの基本を丁寧にレクチャーする。先端にリボンがついた棒をクラブに見立ててスイングすると、切り返しがうまくいったときだけリボンがパチンと音を立てる。あちこちで喜びと落胆の入り混じった笑顔が咲いた。

ランチを食べて、いざコースへ。まずは、フェアウェイで球を打つ練習からスタートし、その後は3~4人ずつの組に分かれてラウンドしていく。各組にゴルフ経験者が帯同し、ボールマーカーやグリーンフォークといった小物類もプレーしながら使ってみる。最後は、組ごとのスコアを競う真剣勝負。グリーン奥から奇跡的なチップインも飛び出すなど、まるでゴルフの神様も、この研修を一緒に楽しんでいるようだった。

実際にコースで打ってみると…

この日、彼女たちが学んだのはどんなことか?「お客様から『白のシューズは汚れが目立つ』という声があるけれど、エアガンや雑巾で綺麗になるから積極的に勧めたい」、「ゴルフ場ではピンクや黄色の原色がよく映える」、「待ち時間が多いのでミトンがあると暖かい」、「初心者はボールポーチや髪の毛を結ぶシュシュなどが必需品」。どれも実体験が裏付けとなっている。

ラウンド途中の雑談で、大田原プロがこんなことを話していた。「冬は乾燥して折れやすいから、ティがたくさん必要なの」。そんな臨場感を含んだ言葉こそ、お客様対応の現場で真価を発揮することだろう。

大田原さつきプロが丁寧に指導する

自分が経験したことで、接客時の視点が変わる。お客様の立場になって、想像を膨らますことができる。角さんは「プロの販売員として、お客様の期待値を上回ってもらいたい」と願っている。求められた商品を棚から見つけてくるだけでなく、来店客が「そうだよね」とひらめきを得るような会話で、洋服に付加価値を付ける。そんな接客が、販売員としての存在価値を高めるのだ。

「この研修を夏にもやりたい」という角さんには信念がある。「ゴルフウェアはまだユニフォーム感覚が強くて、『なるべく派手にしないでね』っていうお客様もいるけれど、僕はコスプレだと思っています。ゴルフは私服でできるスポーツだし、もっと楽しんでいい。我々は“アパレル屋”として、お客様の背中を押してあげたいんです」

まさかのチップインにガッツポーズ!

“アパレル屋”である彼女たちが、これからゴルフをプレーしていくかは未知数だ。だけど、「ゴルフを好きでいてもらいたい」と、“ゴルフ屋”である我々は切に願う。だって、プレーヤーだけがゴルファーじゃない。ゴルフ好きも、立派なゴルファーだと信じるから。だからこそ、寒い中でもGDOスタッフたちは全力でこの研修をサポートしたのだ。もちろん、彼女たちの素敵な笑顔に励まされた…ということもあるのだけど。

<了>

参加者全員で記念撮影

写真・文 今岡涼太

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