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雪が秘めたポテンシャル 「スノーゴルフトライアスロン」誕生の舞台裏 



午前4時。重機に乗り込んだスタッフが、ほの暗いコースへと消えていく。スノーゴルフで使う4ホールのフェアウェイを圧雪し、ティとグリーン、それにカップをセットする。スノーチューブやスノーラフティングが楽しめるスノーランドの整備も終えると、時計の針はもう8時を指そうとしていた。一面の雪から人間が活動できるスペースを作り出すには、驚くほどのエネルギー量が必要だった。

手作りの練習場。毎朝、こうして準備をします。
コース管理のスタッフさん。ゴムボートもピンやグリーンを運ぶのに大活躍!

「我々にとって『雪で遊ぶ』っていう発想は、なかなか浮かばないんです」というのは北海道に住む、あるゴルファーの言葉である。「雪は毎日うんざりなんです。降ったら雪かきをしないといけないし、冬も長い。だから、スノーゴルフを考えていただいて、『雪で遊べるんだ!』って新鮮な思いです」

ゴルフ5カントリー美唄コース(北海道)とGDOが連携して2016年に立ち上げた「スノーゴルフ(当時はウインターゴルフ)」は7年目に突入した。今年の目玉は、日本初開催となる「スノーゴルフトライアスロン」。スノーマラソン5km、スノーバイク2kmをこなし、最後にスノーゴルフを4ホール。スノーゴルフは1打=1分で計算し、3種目のトータルタイム(スコア)で順位を争う競技である。

雪で遊べる爽快感。一度やったら病みつきになる!?

もともとは、クロスカントリースキーを含むトライアスロンをやりたかったという小水隆史支配人だが、「ゴルフを融合させたら面白いのでは…?」とスノーゴルフを組み込んだ。募集枠は16人に設定したが、どれだけの参加者が集まるかは未知数だった。

ずらりと並んだスノーバイク。ただ乗るだけなら楽しいけど、レースとなったら過酷です。

ここでいったん、北海道のゴルフ事情について触れておきたい。道内にある多くのコースは、4月から11月ぐらいまでが営業期間。寒さや降雪、その影響が残る期間は冬季休業を余儀なくされて、当然、収益も上がらない。雇用している従業員も11月でいったん契約を解除して、4月に再雇用することが大半だ。その期間、雇われていた人々は他の仕事を探す。より良い条件の職場が見つかれば、春に再びゴルフ場に戻ってくるという保証はない。

そんな中、ゴルフ5カントリー美唄コースは、12月中旬から3月上旬頃まで雪で遊べるスノーランドを営業し、年が明けた1月8日から2月末までの土日祝(2022年実績)は、スノーゴルフもプレーできる。それにより、今年は通年雇用している従業員が4人いる。海外からのインバウンド客が約1300人訪れていた3年前は、冬も15人ほどが常時働いていたという。雇用維持、地域経済の活性化にとって、冬のゴルフ場の有効活用はその効果が高いのだ。

あー、惜しい。失敗しても、なんか笑顔が出ちゃいます。

現在、日本でスノーゴルフがプレーできるのは、ここ美唄だけ。「北海道ではだいぶ広まってきたなというのはあります」と語る小水支配人だが、過去3年のスノーゴルフのプレーヤーは年間150~200人で推移している。営業1日につき約10人がその目安である。

「スノーゴルフトライアスロン」に話を戻そう。募集時の不安とは裏腹に、出場全16枠は開幕前にきっちり埋まった。参加選手としてGDOのYou Tube出演も快諾してくれた櫻井有希プロは、「冬の北海道は初めてだし、お話をいただいてすぐに行きたいと思いました」と意気揚々と乗り込んできた。「ここでしかできないイベントだし、すごく有効な使い方」と純白のフェアウェイにテンションも上がり気味だ。

スノーゴルフトライアスロンに挑戦した櫻井有希プロ

そして、いざ開幕した大会は…やはり過酷だった。不安定な雪に走る足を取られ、新雪にはまったバイクのタイヤは空転する。かといって、ただキツイだけではない。ふと顔を上げれば、澄んだ空気の向こうに雪化粧の樺戸(かばと)連山が輝いている。普段より大きなカップを使うスノーゴルフは、“シビアさ”と“いい加減さ”がほどよくミックスされていて歓声を誘う。来れば分かる。やれば分かる。大会終了後、すぐに「また来年も参加したい!」という声を多く聞いたのは事実である。

レースは過酷だけど、景色は最高!!
美唄市議会議員の斉藤久美夫さんは、マイバイクを持ち込んで果敢に挑戦!

コースは札幌中心部から車でたっぷり1時間。「もう少し札幌の近くなら集客に苦労しない」という地理的条件の中、交流人口の増加を目指す自治体・美唄市の支援も受けて、活動は続いている。同コースでは「スノーマラソン」、「スノーサイクルレース」などのイベントも行われているが、ゴルフを通じて冬のアクティビティに彩りを加えられているのはうれしい。

スノーゴルフトライアスロン優勝の黒坂祐太さん。マラソントレーニングと事前の練習ラウンドが奏功。

来るべき2023年の「スノーゴルフ GDO Day」――小水支配人は、すでに来年の構想を練り始めている。「マラソンが厳しかったという話もあったので、たとえば、過酷なものとライトなものの2部門に分けるとか。あとは、マラソン担当、バイク担当、ゴルフ担当の3人1組でやるチーム戦も考えています。それならば、ゴルフをやらない人も参加できるので!」

第1回「スノーゴルフトライアスロン」の表彰台。左から金山誠さん(3位)、あおい夏海さん(女子1位)、黒坂祐太さん(優勝)、千葉晃太さん(2位)

じっと耐えた冬が過ぎ、新芽が動き出す春は近い。積み重ねてきた一つひとつの取り組みが、花となり、実をつける。海外からの来場者も、もうすぐ戻ってくることだろう。「雪はゴルフ場にとって貴重な資源」。そう言える日も、きっと遠くはないはずだ。

<了>

◆「スノーゴルフ GDO Day」スノーゴルフトライアスロン 上位の成績
優勝 黒坂祐太(ラン25:14、バイク11:20、ゴルフ16、合計スコア52:34)
2位 千葉晃太(ラン29:31、バイク19:01、ゴルフ13、合計スコア56:01)
3位 金山誠(ラン28:11、バイク10:20、ゴルフ18、合計スコア56:31)
女子1位 あおい夏海(ラン34:59、バイク12:37、ゴルフ21、合計スコア68:36)

日本初開催の「スノーゴルフトライアスロン」。スタートはみんな笑顔。

写真・角田慎太郎、文・今岡涼太

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