story 2023.10.17

ナイトピクニックが実現する「都市型ゴルフ場」の新たな価値

うだるような暑さだった夏が終わり、肌に心地よい秋風が吹き始めた10月7日（土）。いつもは暗闇に包まれた夜のゴルフ場を開放し、キラキラ輝く光線で彩った非日常空間を楽しんでもらおうという「ナイトピクニック2023」がGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスで開催された。2020年に始まったイベントは、今年で4年目に突入した。

ゴルファーだけに閉ざされていた空間を、誰もが親近感を抱ける場所に変えていく――。コロナ禍に始まった近隣小学校の卒業イベントも継続中で、この日会場を訪れた茅ヶ崎市立浜須賀小の青柳和富校長は「門戸を開いてくれていることで安心感があります」と児童の気持ちを代弁する。広域避難場所に指定されているゴルフ場が“行ったことのある場所”である意味も小さくはないはずだ。そして、このナイトピクニックに対象の制限はない。大人も子どももウエルカムだ。

ゴルフ場から徒歩1分に自宅を構え、茅ヶ崎在住40年の川崎富士朗さんは「昔は全然いなかったけど、最近は若い人がすごく増えて活気があるね」と、にぎわう夜のゴルフ場に目を細めた。ノンゴルファーの夫人もクラブハウス2階のカフェはよく利用するそうで「地域にとってありがたいことですよ」と言葉を添える。かつては俳優の上原謙さん、加山雄三さん親子らが共同オーナーのパシフィックホテル（パシフィックパーク茅ヶ崎）がラチエン通りを挟んだ向かいにあり、プールやボーリング場まで備えた優雅な遊び場だったと懐かしむ。「でも、今はこのゴルフ場がその代わり」と夫妻はにっこり微笑んだ。

SNSで今回のイベントを知ったという相模原市の老沼一哉さんは、妻のゆかりさんと5歳の息子・凛人くんを引き連れて初めて当地を訪れたそう。ゆかりさんは「光がきれいだし、すごく楽しいです。子どもが好きなビーチコーミングアートも予約したし、夜っていうのも新鮮でいいですね」とキラキラと目を輝かせる。かつてプレーしていたゴルフは子育てに追われて小休止しているが、「ナイトゴルフをきっかけに、みんなでラウンドできたらいいですね」と家族3人でゴルフを再開する日を夢見ていた。

ところで、今年のナイトピクニックは「食と光」がテーマである。9番フェアウェイの脇に置かれた赤・青・黄・緑・紫とめまぐるしく色が変わる照明は、子どもにとっては立派な舞台装置である。まるでアイドル歌手のように、カラフルな光線を浴びながら上手にダンスを披露する子どもがいる。その一方で、場内にはドネルケバブのキッチンカーや、たこ焼きやポップコーン、かき氷に地ビールを扱うショップが出店し、大人たちはのんびり飲食も楽しんでいた。

「お目当ては飲み食いです。お祭り感覚だし、友達にも会えるのがうれしい」と笑うのは、毎年このイベントを心待ちにしている内波義雄さん。「気軽に入れるゴルフ場はうれしいです」とビールも進む。妻の恵美佳さんも「普段はリモートワークだけど、会社の人を呼んでカフェを利用したりしています。景色が良くて、開放感のある中でいろんな話をしています」とプレーはしなくても、ゴルフ場はフル活用中。最近ドラムにハマっているという12歳の利孔くんは「ゴルフは昔やっていたし、嫌ではないです」と照れくさそうに教えてくれた。

市街地にあるGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスのようなゴルフ場は、地域の自然環境を保全して、生物多様性に寄与できる。ゴルフを通じて人々の心身の健康に貢献できるし、ゴルファー以外の人々にとっても憩いの場として活用できる。例えば、世界最古のゴルフ場であるスコットランドのセントアンドリュースオールドコースは、芝保護の観点から毎週日曜日は一般のゴルフプレーが禁止され、人々は無料でコースをそぞろ歩ける。年間約5万ラウンドという世界屈指の人気コースと事情は違うが、都市型ゴルフ場であるGDO茅ヶ崎ゴルフリンクスが目指すのも、そんな多様なゴルフ場の活用である。