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100ヤードの練習場から生まれた“日本一” トップトレーサーがネットの向こうに描く未来

トップトレーサー導入以前、スウェーデン本国から初来日した同社のスタッフは、練習場で黙々と球を打ち続けるゴルファーを見て「彼らはいったい何の練習をしているんだ?」と素朴な疑問を口にしました。それは、日本のゴルフ練習場に突き付けられた本質的な問いでもありました。ゴルフは、本来ターゲットスポーツです。狙った目標を定めて、そこに打てるかどうかが大切なはず。しかし、目の前で繰り広げられている光景は、ただ全力で真っ直ぐ打つことだけを繰り返しているように映ったのでした。

2025年、GDOが主催した第1回「トップトレーサー・レンジ マスターズ」は、練習場で完結する競技を作ろうという試みでした。「ゴルフは、コースだけの競技じゃない」を合言葉に、競技参加のハードルを下げ、ゴルフ練習場を単なる練習施設ではなく、そこで独自の楽しさを提供できる場に進化させること。つまり、練習場を“準備の場”から“主役の舞台”へ再定義するというGDOの思いが込められたのです。

「トップトレーサー・レンジ マスターズ」の王者誕生施設に掲げられる優勝旗

3回の予選会を経て行われた最終決戦まで、総参加者数は全国140施設から1万6814人に達し、その半数が競技未経験者でした。この事実は、練習場を“もう一つの競技空間”にできるという私たちの仮説を裏付ける結果でもありました。

全ホールバーディを上回る、スコア「52」の世界

北アイルランドのロイヤルポートラッシュ(6730yd/パー72)を舞台としたバーチャルゴルフで争われた決勝戦で、参加者の中でただ一人「52」というスコアを出して初代王者に輝いたのが、福岡県出身の18歳、“ほしがきれん”こと三明蓮(みあけ・れん)さんです。今年、ゴルフの名門・沖学園高校を卒業し、東北福祉大学への進学が決まっているトップアマは、300ヤード超えの飛距離を生かしてゲームを攻略していきました。

三明さん一家。(左から)父:宏一さん、弟:優太さん、蓮さん、母:真唯子さん

「リーダーボードのトップが54だったけど、まだ絶対に伸ばしてくるなと思った」という三明さんは、いつでも最初からやり直せるゲームの特性を生かして挑戦を繰り返します。「回りきったのは一度だけ」というベストラウンドは、すべてのパー5でイーグルを奪い、残りは12バーディと2つのパー。バーチャルゴルフでは、最後はショットの落下地点に応じてスコアが決まります。「1回、34mのバーディチャンスを外してしまったけど、逆に0.3ヤード(約27センチ)くらいのイーグルチャンスが決まりました」という、ほぼ完璧なラウンドでした。

100ヤードの哲学

プロゴルファーを目指す三明さんは「自分はドローヒッターなので、捕まりすぎないように、左右のブレを見ながら微調整したり、飛距離を確かめたりしています」と、練習にも積極的にトップトレーサーを取り入れています。「ちゃんと数値が出ているから、コースで275ヤードのバンカーも『越せるな』みたいに、マネージメントがしやすくなりました」と成果も実感しています。

普段の練習でもトップトレーサーを活用している

その言葉を喜ぶのは、練習場を経営する西鉄ウェルネス株式会社の頓田正社長です。「ゴルフ練習場ってなんだろうと考えた時、やはり一番は“ゴルファーの成長を支援する場”だと思うんです」と頓田社長は力を込めます。「私たちのセンターは100ヤードしかありませんが、そこで三明さんが日々練習して、全国大会で優勝してくれました。私たちの練習場はこんなに狭くてもゴルファーの成長を支援できるんです」

100ヤードの練習場から生まれた日本一。ネットの先まで可視化することで、300ヤードの練習場に勝るとも劣らない体験を生み出せる。物理的制約がデジタルによって拡張できる可能性を、三明さんの全国制覇が示してくれたのです。

(左から)西鉄ウェルネス株式会社の頓田正社長、三明蓮さん、GDOの築山充執行役員

トップトレーサー導入で起きた変化

52」が出た西新ゴルフセンターは、博多駅から西に約5キロ、大濠公園や百道浜も近い福岡市早良区の閑静な住宅街の中にあります。1985年に開業し、2階建てで1フロア28打席のこぢんまりとした施設です。場所柄、会社役員や年配の来場者が多かった練習場は、20253月にトップトレーサーを導入するとすぐに変化が現れました。

「若いお客様が増えたことが一番うれしいですね」と前山剛支配人は振り返ります。新規顧客の平均年齢は、男性37歳、女性36歳と大幅に若返りました。当初、一人で静かに練習することを好む既存顧客との摩擦も懸念されましたが、新規の若者たちは17時以降が中心で、その一方で既存顧客は徐々に朝にシフトしていき、自然な棲み分けも生まれました。

西新ゴルフセンターの前山剛支配人

「若い世代がどんどんゴルフに携わっていくことで、新たな扉が開きつつあって、もっとやれる、まだやれるという感覚になってきました。だから、このタイミングで日本一が出たということは、当センターにとってはかなりうれしいことなんです」と前山さんは語ります。

多様なゴルファーと、多様なゴルフ練習場

日本全国にあるトップトレーサー導入済みの練習場では、音楽を流したり、個室を作って大人数で一緒にプレーできるようにしたりと、工夫して新たな楽しみ方を模索しています。ゴルファーが多様なように、練習場も多様であっていい。練習する場としてだけでなく、健康促進のための適度な運動機会の提供や、地域コミュニティとしての役割、アミューズメント施設としての側面も兼ね備えています。

そして、「トップトレーサー・レンジ マスターズ」のもう1つの狙いは、新たなヒーローを生み出すということでした。三明さんは「トップトレーサーは全国にあるので、1位に『ほしがきれん』という名前を載せたいと、本気で優勝を狙っていました」と打ち明けます。その言葉通り、「トップトレーサー・レンジ マスターズ」初代王者の称号は、「52」というスコアと共に歴史にしっかりと刻まれました。

初代王者となった「ほしがきれん」こと三明蓮さん

練習場ネットの向こうに描かれる未来。練習場を“主役の舞台”へと変えるGDOの挑戦は、まだ始まったばかりです。

<了>

写真・文 PLAY YOUR LIFE編集部

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