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ティモンディ前田裕太さんが「競技ゴルフ」に挑む理由

ゴルフに夢中!のティモンディ前田裕太さん

大きなワゴン車が歩道に幅寄せするように、ふいに前方で停車した。チカチカと点滅するハザードランプ。「やばい、誘拐される」と一瞬身体がこわばったが、車のウインドーがスーッと下がり「前田さん、ゴルフ見てます!応援しています!」と呼びかけられてホッとした。そう言って笑うのは、お笑いコンビ・ティモンディの前田裕太さん。キャラの濃い相方、高岸宏行さんのイメージが先行する2人だが、「ゴルフを始めてから『前田さん』って声を掛けられることが増えました」とうれしそうに視線を上げた。

ティモンディがゴルフクラブを握ったのは、20202月に始まったGDOの連載企画「野球芸人ティモンディのゴルフ・トライアウト無限大」がきっかけだ。済美高(愛媛県)の野球部同期だった2人が、抜群の運動神経を駆使して初めてのゴルフに挑む。女子プロゴルファーやゴルフ好き芸能人らと絡みながら「やればできる」と熱心にゴルフに打ち込む姿は、幅広い層の支持を得てシーズン44年目)に突入した。新シリーズでは前田さんが競技ゴルフに挑戦するまでに成長している。

駒澤大・法学部出身の前田さんは、高校野球を辞めてからは「考えるのが好き」と読書やネイル、麻雀などインドア系の趣味に没頭した。そんな時に出会ったのがゴルフである。「身体を動かしながら頭を使う。自然に本気になっちゃった」とのめり込んだ。答えが一つの数式とは違い、一人ひとりにとって正解が違うこともゴルフの魅力。一筋縄ではいかない難しさがあり、全て自己責任であることも、向上心を刺激する要素だという。

“深い沼”なのである。車を所有しておらず、ゴルフに行くとなったら1人予約でゴルフ場を検索し、クラブバスの有無と時刻表を調べるために「ゴルフ場のホームページを見てから予約する」のがルーティン。キャディバッグは(さすがにコンビニから送るのは恥ずかしいので)事前に運送会社の営業所まで持っていき、当日は電車とバスでコースに向かう。そして、初対面のおじさんたちと一緒にゴルフを楽しんでいる。

暇があったら1人予約で颯爽とプレーする

GDOのミッションは「ゴルフで世界をつなぐ」である。大げさな言葉に聞こえるかもしれないが、その意図はシンプルだ。代表の石坂信也は言う。「例えば、ゴルフがなければ絶対に行かないような土地に行って地元の人たちと一緒になって楽しめたとか、人とつながるきっかけを与えてくれるのがゴルフの素晴らしい側面の 1 つ。世界って“海外の国々”という意味じゃなく、あらゆる人、土地、違い、空間や時間のこと。それらをつないでいくことが『ゴルフで世界をつなぐ』なんだよね」

2011年、東日本大震災の発生からほどなくして石坂は単身被災地を訪問した。そこで見たものは、まだ被害の爪痕が残る中、ひっそりと営業を開始しているゴルフ場だった。平日は復興に向けて作業をしている人たちが、週末にはゴルフ場に集まってゴルフをし、笑い合い、お風呂に入って、また翌週への英気を養っている。「あぁ、ゴルフは役目を果たしていたんだな」と石坂は安どした。ゴルフが人々を結束させ、生きる活力になっている。石坂は、自身が手掛ける事業が間違っていないことを確信した。

ちょっとしたトラブルも楽しいのです!

ゴルフは個人競技でありながら、人と人との接点を無数に作ってくれる特徴がある。マナーとエチケットを最優先し、同伴競技者を尊重する。スイング、ギア、プロツアーから名門コースまで話題にも事欠かない。「この間もトータルテンボスの大村(朋宏)さんから『ゴルフやっているんでしょ!』って声を掛けていただいたんです」と前田さん。「仲良くなりたい先輩との距離がグッと近づく。『あ、じゃあ一緒に回りましょうよ』みたいな話もできる。非常に助かっています」とコミュニケーションの輪も広がっていく。

いま向き合っている「競技ゴルフ」も、前田さんにとって未知の世界で、ここでもまた新たな発見や出会いがあるだろう。撮影で一緒になったゴルゴ松本さんには「ゴルフは50歳からが伸び盛りだ!」と励まされた。「それって技術だけじゃなく、精神的なものがでかいんだろうなって思うんです。だからこそ、大会でそれができるか?『前田はどうなんだ!』っていうところでやってみたい」と並々ならぬモチベーションを抱く。

もしかしたら、ゴルフは人と人をつなぐだけでなく、自分自身との関係も再構築してくれるのだろうか? 「人によってミスの仕方も偏ると思うんです。僕だったら、いつもより人が多く集まっていたら、そりゃ『いいとこ見せたい』って力が入るだろうなぁ…とか。そこを分かった上でどうするか。18 ホールという“1つの人生”をどううまくまとめていくか」という自己分析と自己対話も、前田さんのゴルフにおける日常だ。

番組の相方・ゴルフテックの吉田幸太郎コーチと銀の盾を手に談笑する

昨年10月、GDOYouTubeチャンネルは登録者数10万人を突破した。10万人という数字は、これまで多くの人々をゴルフがつないできた証しである。番組プロデューサーを務めるGDOの柴田雄平は「ゴルフ業界に対するGDOの発信力は強いけど、その外側、特に若年層に対しては野球、サッカーなどのメジャースポーツには到底及ばない。それを打破するために、子どもたちやその親が少しでも興味を持ってくれるような内容にする必要がありました」と番組の企画経緯を振り返った。GDOYouTubeチャンネルが開設されたのは2012年8月のこと。少しずつ世界を広げて、10年掛かって“銀の盾”にたどり着いた。スタート当初は想像もできなかったが、何事もきっと「やればできる」のだ。

<了>

ゴルフ・トライアウト無限大4

ゴルフダイジェスト・オンライン - YouTube

写真・文 今岡涼太

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