story

平均スコア90切りは当たり前 「ゴルフ日本一」東伊豆町の昔と今

「伊豆の味 海の幸」と書かれたのれんをくぐりガラガラと引き戸を開けると、カウンターとテーブル数卓の店内は先客たちで賑わっていた。北に天城連山、南に伊豆七島を臨む伊豆半島中東部、静岡県東伊豆町にある居酒屋「笑の家」である。翌日のゴルフに備えて稲取銀水荘に荷を下ろし、軽く夜食でも…と外に出たところだった。

趣のある店構えにふらりと立ち寄ってみると…

明日は「第1回 まちまるごとゴルフ大会」というワクワクするようなネーミングのコンペである。東伊豆町唯一のゴルフ場である稲取ゴルフクラブを舞台にし、町民と町外の人たちの交流を目的とした記念すべき初回大会。ビールを飲み終えたところで店の主人とその話題になった。町内参加者はほぼ全員が顔見知りらしく、ペアリング表を見せると「これは同級生で、この人は金物屋をやっていて…」とアレコレ情報を教えてくれる。アットホームな雰囲気に早くも明日が楽しみになったのだった。

日本の地方都市ほぼ全てが抱える人口減少という問題を、外から訪れる人や関わってくれる人、いわゆる“関係人口”を増やすことで改善しようというのがコンペ開催の目的で、発案者は町役場に勤務する鈴木祥子さん。町ではワーケーションや移住にも力を入れるが、稲取高校ゴルフ部出身の鈴木さんはゴルフを活用することを思いついた。

稲取銀水荘の客室からの眺めです


「東伊豆町は『ゴルフ日本一の町』をうたって長いですが、最近は以前ほどの盛り上がりがなくなってしまったので、ゴルフと日本一を掛け合わせたら面白いんじゃないかなと思いました」というのが企画意図。かつてほどの活況はないとはいえ、今も年2回行われる「町民ゴルフ大会」には町民の約1%(!)が出場する。しかも、そのレベルが高いのである。「まちまるごとゴルフ大会」は、そんなゴルフを活用して町を盛り上げていこうという試みである。「ゴルフは4人で一緒に回るからお話もして仲良くなるじゃないですか」という鈴木さんは、今大会でベスグロを獲得する実力者だ。

広瀬重幸会長(左)と村木浩之支配人(右)

だが、「ゴルフ日本一」たる所以はそれだけにとどまらない。コンペ当日、筆者が同組となった東伊豆町ゴルフ連盟の広瀬重幸会長と稲取GCの村木浩之支配人のお話に思わずうなった。

聞けば、東伊豆町が「ゴルフ日本一」を掲げて以来、日本全国の市町村から計6回の挑戦を受けているが、全て返り討ちにしたというではないか。「日本一争奪 全国地域交流対抗ゴルフ大会」と記された戦績一覧によると、第1回大会は1999年9月28日。対戦相手は東京都多摩市の53人で、これを東伊豆町は66人の精鋭で迎え撃った。ルールはいたってシンプルで、参加者全員の平均スコアで勝負する。結果は…多摩市の「102.9」に対し、東伊豆町は驚がくの「88.3」! これが66人の平均スコアというのだから圧巻である。

ゴルフ場のランチでは新鮮なお刺し身も堪能できる

それ以降、交流戦を含めて全7試合。東伊豆町は最少47人から最多95人が参加して、平均スコア「90」切りは当たり前。第6回大会(2013年)で「日本一」は死守したものの、初めて平均スコアが「90」を超えて失望したのか、それ以降、対抗戦の時計の針は止まったままだ。

「日本一争奪 全国地域交流対抗ゴルフ大会」

大会

日付

市町村(参加人数)平均スコア

第1回

1999年9月28日

静岡県東伊豆町(66人)88.3
東京都多摩市(53人) 102.9

第2回

2000年10月23日

静岡県東伊豆町(72人)87.0
千葉県野田市(66人)89.2
埼玉県新座市(65人)92.7
福岡県飯塚市(55人)95.7

第3回

2001年10月9日

静岡県東伊豆町(95人)87.0
群馬県草津町(76人)90.2

第4回

2002年10月7日

静岡県東伊豆町(75人)85.0
群馬県片品村(75人)88.5
石川県富来町(71人)92.5

第5回

2004年7月5日

静岡県東伊豆町(67人)85.5
埼玉県志木市(67人)92.3

交流戦

2006年7月3日

静岡県東伊豆町(62人)87.1
東日本障害者ゴルフ協会(54人)95.4

第6回

2013年11月18日

静岡県東伊豆町(47人)90.18
群馬県中之条町(48人)91.43

対抗戦の参加人数は最低40人を目安としていて、町内に宿泊してもらうことも暗黙のルールとなっている。前日に練習ラウンドをして、夜はみんなで決起集会代わりの宴会をし、温泉に浸かってぐっすり眠る。対戦相手は「ゴルフ日本一」の東伊豆町なのである。勝てば「日本一」の称号と「日本一」の看板そのものを持ち帰れる。事実、町役場の鈴木さんは「はい、勝てば持って帰れます」と認めている。だが、この看板の足元はコンクリートでガチガチに固められており、「日本一」を手に入れるには相応のゴルフの腕前だけでなく、本格的な土木作業も求められるのでご注意を!

「ゴルフ日本一」の看板。勝てば持って帰れます!

さて、海・山・島・森と9ホールが4つある稲取GCは、かつて福嶋晃子がオフシーズンに合宿をしたり、石川遼が番組収録で訪れたりしたコースである。この日は広大な池が絡む海コースと、打ち上げの砲台グリーンが続く山コースを堪能した。やはり地元の人たちと一緒にプレーするのは楽しいものだ。最近コロナに罹患して力が入らないという村木支配人の苦しいゴルフをしばしば広瀬会長が茶化すのだが、その背後にチラチラと「ゴルフ日本一」のプライドが見え隠れするのだった。

アップダウンがあり難易度の高い稲取ゴルフクラブ

表彰式で、地域交流対抗ゴルフ大会の常連だったという「ふたりの湯宿 湯花満開」の石島専吉社長に当時の様子を聞いてみた。「なにしろ『東伊豆はうまい』っていうのが頭にあって、いつもプレッシャーなんですよ。もう何しても80台で回らないと『お前カットだよ』って言われてメンバーになれなかった。親父もずっとシングルで、ゲイリー・プレイヤーが好きでいつも黒ずくめだったので、親父が亡くなった時に黒の御影石でボールとクラブの墓石を作って周囲を人工芝にしたんです」。そのお墓を作ったのが 約20 年前だという。「あの頃は町全体のゴルフ熱もすごく高かったですね…」

まちまるごとゴルフ大会のアットホームな表彰式

消えかかった火を再燃させるのに、対抗戦の復活は最高の材料となるだろう。もちろん、「日本一の町」をうたえるのは市町村に限られるが、企業や団体の挑戦も受け付けているという。チームGDOで挑戦するなんてことも可能だが、40人超のゴルファーで平均スコア「90」切りというのはなかなか高いハードルだ。それでも、東伊豆町は金目鯛やつるし飾りも有名で、今年は4年ぶりに奇祭「どんつく祭」も復活した。仲間たちと繰り出せば、挑戦自体多いに楽しめることだろう。社員の誰か、企画してくれないかな(笑)!

<了>

写真・文 今岡涼太

この記事をシェアする